図書館に行こうよ ―図書館職員の図書館的日常―      192
 
     
  5年間の感謝を込めて  
     
    今回のコラムが私の最後ということもあり、全く個人的なことで終始するかもしれませんが、お付き合いください。5年は長いのか短いのか…それは人それぞれだとは思いますが、私自身5年という時間を図書館という職場で過ごすとは思っていませんでした。

図書館は静謐であるべきか
 「静謐」の在り方をこのコラムで何度か考えたことがありました。そもそも図書館とはどんなところなのでしょう。本を読む、調べる、つながる、人それぞれだと思います、静謐さを求めて来館される方もいらっしゃるでしょう。
 5年前に増設された多目的室、ラウンジは「にぎやかスペース」として位置づけられています。静謐さを求める人にとっては迷惑な場所かもしれません。ですが、小さな子どもを連れて来館される方にとっては気兼ねなく本を選び、子どもに本を読んであげられる場所であり、それが次代を担う子どもたちのよき時間となっているはずなのです。図書館の事業もここで行っています。事業をきっかけに、図書館に足を運んだことのない方が図書館に来ていただけるきっかけにもなっていると考えています。

図書館の事業
 ある講座のグループ討議で、図書館ボランティアをしている方から公共図書館の方に聞きたいと質問されたことがあります。「おはなし会や事業をやるといつも同じ人しか来ないけれども、図書館が事業をやるときのターゲットをどこにしていますか?」というものです。私の回答に笑いと「目からうろこです」という感想が出ました。
 「いつも図書館に来ていただいている方を対象に事業は企画しません、図書館に来たことのない人に足を運んでもらいたいという思いで企画しています」というのが私の回答でした。図書館にいつも来ていただいている方は、気に入った事業があれば参加してくれるのです。それが同じ顔触れになってもいいのです。参加した中に「初めて図書館に来た」という方がいたら、未来のヘビーユーザーになるかもしれないのです。そんな思いで様々な事業を行ってきました。時には静謐でない図書館になり、ヒンシュクをかったこともありましたが。

やはり本のことを
 今月は私の前に本があふれています。
 富安陽子著「博物館の少女」「ふたつの月の物語」。どちらも児童書ですが、図書館になかったのでポチっとしました。図書館から借りたのが本屋大賞ノミネート作品から、西加奈子著「夜が明ける」、朝井リョウ著「正欲」。このうち3冊はある方のブックトークで琴線に触れたものです。
 もう1冊がA・Aミルン著、森絵都訳の「くまのプー」です。表紙と挿絵が村上勉さんの絵になっています。著者が亡くなってから50年(現在は70年)で著作権の保護期間が終了するのですが、「くまのプーさん」の挿絵を描いた方が長命のため著作権が消えるまで時間を要したそうです。待ちきれずに絵を別に企画、出版されたのがこれでした。挿絵を描かれた村上勉さんの絵本を40年以上前に購入したことがご縁で手元に引き寄せました。

楽しいこと
 仕事をして「楽しい」と思えることは幸せなことだと思います。毎日が、朝から晩まで楽しいはずはないのですが、職員には仕事のどこかに「楽しみ」を見つけて仕事をしてほしいと話してきました。そうすれば嫌な部分も相殺されるからと。私の仕事の仕方がそうだったように、職員にも楽しんで仕事を続けてほしいと願っています。
 図書館勤務5年の間に、いろいろな方とつながることができました。地元の方々はもちろんですが、図書館勤務でなければ知り合えなかった作家さんや絵本作家さん、編集の方、音楽家、よみ聞かせの先生、出版社の方々、そして「図書館」というつながりの多くの方々。
 図書館の仕事を離れてもつながりは消えることはないと思っています、例えばドリアン助川さんとは朗読劇「新宿の猫」を大館でもやろう、と約束しています。絵本作家の宮西達也さんとは三陸に一緒にいこう!と約束をしています。「図書館」ともそうです。
 コロナ禍でいろいろなことを諦めなければならない時期が続いています。そんな中での図書館勤務でしたが、「楽しい」といえる職場でした。図書館らしい事業を企画運営してくださった図書館後援会、おはなし会を担ってくれたボランティアさん、高校生、福祉作業所、市の様々な機関、そして何より図書館の実務を担ってくれている職員たち、さまざまな方々とつながりながら図書館で過ごせたことに心より感謝します。(保)