図書館に行こうよ ―図書館職員の図書館的日常―      204
 
     
  秋の七草2題  
     
   ✿秋の花とお裾分け

 きょうは彼岸の中日、秋分の日です。栗盛記念図書館の掲示板横の植え込みにはミズヒキが咲いています。松下村塾にはコハゼ(ナツハゼ)の実もなっています。花壇にはアサギリソウというちょっと珍しい花が植えられているのですが、今年はドクダミの勢いに押されています。

 花を愛でる心は今も昔も変わりありません。平安時代の歌人、伊勢はとりわけ草花が好きだったようで、宮仕えしていた時も、自分の部屋の前に草花を植えて楽しんでいたそうです。※1

 こちらは、自分の家の庭に咲いたナデシコの花をお隣に贈るときの歌、

 いづこにも咲きはすらめど我が宿の大和撫子誰に見せまし

(どこにでも咲きはするのだろうが、我が家の大和撫子を一体誰に見せようかしら。他でもない、あなたにお見せいたしますよ。※1)

 これは現代でも野菜や庭の花をお裾分けする気持ちに通じるものがあると思います。もともと和歌の題材として植物は欠かせないものですし、今より遥かに植物が身近だった時代のことですが、ほかにも伊勢はススキや菊の花を人に贈るときの歌や、庭に敷く砂をもらったお礼などを歌に詠んでいました。

 ナデシコは秋の七草のひとつに入っています。夏の早いうちから咲きはじめますが、季節としては秋に分類されます。

✿鎌倉殿と萩の花

 秋の七草といえば筆頭に萩が挙げられています。現在放送中のNHK大河ドラマでは、鎌倉殿は代替わりして3代目・源実朝になりました。この人は『金槐和歌集』(『鎌倉右大臣家集』とも)という歌集を残しています。その中に萩の花を詠んだ歌があります。

 萩の花暮れぐれまでもありつるが月出でて見るになきがはかなさ

(萩の花は先ほどの日暮れまでは残っていたのだが、月が出てからふと見てみるともうない。そんなはかない花だったことだ。※2)

 萩の花は赤紫色をしたものと、白いものとがあります。白い花の方が夕方の薄暗闇のなかでも長く目につきやすいでしょうし、赤紫の花の方は闇にまぎれて見失いやすいと思います。この歌ではどちらでしょうか。

 「はかなさ」は花が散ってしまってはかない、というよりは、「本当にそこに咲いていたのか、確かめる術もない。確実なものは何もない」という虚無感につながるような気もします。実朝の歌風はよく「万葉調」とか「ますらおぶり」と称されますが、こんな歌も残していました。作者の境遇を必要以上に作品に重ねるのは、鑑賞としては慎まなければならない態度かもしれませんが。

 ちなみに、実朝にも、冒頭の伊勢の歌のような「美しく咲いた花をあなたにこそ見せたいものだ」という歌があります。

✿おばけをつくろう!

 最後にお知らせをふたつ。

 10月3日(月)から7日(金)まで、栗盛記念図書館では恒例の蔵書点検を行います。図書館は閉まりますのでご注意ください。かわりに9月20日(火)から貸出期間が3週間になります(栗盛記念図書館のみ)。栗盛以外の3か所の図書館は通常通り開いていますので、そちらもご利用ください。

 さて、蔵書点検が終わりますと、10月15日(土)、ほくしか鳴鹿ホール(大館市民文化会館)で絵本作家の宮本えつよし先生をお招きしてワークショップ「おばけをつくろう!」が開催されます。

 宮本先生の代表作は「おばけずかん」シリーズ、「キャベたまたんてい」シリーズなどたくさんあります。絵を見れば誰もが「あの人!」となるはずです。読み聞かせも予定しています。宮本先生と一緒にオリジナルのおばけを作ってみませんか。まだまだ参加を受け付けています。詳しくはポスターやちらしを御覧下さい。小学生以外の参加もOKです!なお、定員に達し次第、受け付けは終了させていただきます。

※1 中島輝賢『コレクション日本歌人選23 伊勢』笠間書院、2011

※2 三木麻子『コレクション日本歌人選51 源実朝』笠間書院、2012

(栗盛・田村)