『追憶の3月』(2015/03/13掲載)

大荒れの3・11。あの年も寒かったですね。

✿『夢でまた逢えたら』

 中央図書館の書架整理をしている時、図書館には入らないだろうから買おうかなと思っていた本があるのを見てビックリ。いや、図書館職員として購入図書の一覧には目を通しているはずなのですが、そのリストには著者名がないので見落とすことがあるんです、私の場合。それが、亀和田武『夢でまた逢えたら』(光文社、2013年4月)。

80年代からSF作家として、またマンガ、ジャズ、ポップス、プロレス、競馬といったサブカルチャー寄りのコラムニストとして活動し、テレビ番組のキャスターも務めた亀和田武氏。49年生まれの団塊世代だから当然とはいえ、60代後半に入っているんですね。この本は、これまでカメワダ氏が会ってきた人たちの思い出を語る文章がメインのエッセイ集です。いつも若々しい氏の姿しか記憶にないのですが(たとえば「平成教育委員会」、って十分古いか?)、こんな回顧的な本を出すようになったのかと、しみじみします。

取上げた人たちの何人もが鬼籍に入られている。もちろん現役もいるけれど、思い出語りなのでなぜか皆懐かしい。たとえばナンシー関、佐野洋子、目黒考二、椎名誠、嵐山光三郎、片岡義男、広瀬正、柴野拓美、横山剣、手塚治虫、鈴木いづみ、岡留安則、山崎ハコ、広瀬和生、坪内祐三……。痛烈に皮肉られている蓮舫、松野頼久、森田健作、桂三木助(四代目)といったところもいますが。

1ヶ所だけ引用します。〈一九七〇年に刊行された長編『マイナス・ゼロ』は、私にとっては時間テーマSFの、世界最高傑作である。周到に練り上げられたタイムトラベル理論も群を抜いているが、時間転移先の昭和七、八年ころの銀座のにぎわいと、まだ郊外だった世田谷の描写がなんとものどかで趣があり、良質のノスタルジアに満ちあふれている。〉

 片岡義男がサキソフォンを広瀬正に習っていたという驚きの事実に続き、広瀬正(1924-72)のことを書いている場面です。高校生のころ筋金入りのSFファンだった亀和田さんは広瀬正に会っているのですね。広瀬正といっても知らない人が多いでしょう。東京京橋生まれ、戦後ジャズバンドのリーダーとして活躍したサックス奏者で、バンド解散後はSF作家として注目されましたが40代で心臓発作のため亡くなっています。文庫で6冊の全集は今も版を重ねて集英社文庫から出ています。3度直木賞候補に上って司馬遼太郎から激賞されたけれど、他の委員全員から反対されたのは有名な話。『マイナス・ゼロ』だけですが比内図書館に所蔵ありです。宮部みゆきの『蒲生邸事件』で戦前昭和の東京に共感を覚えた人は間違いなくはまると思うので、ぜひ。ちなみに私は『ツィス』も大好きです。

 『夢でまた逢えたら』って、タイトルがいいですよね。大瀧詠一の名曲『夢で逢えたら』の冒頭「♪夢でもし逢えたら」のもじりかと思いますが、『夢で逢えたら』というコント番組もあったし、NHKの「夢で逢いましょう」など、ロートルには懐かしい連想が続きます。ところで亀和田さん、東京っ子かと思いきや、栃木生まれなんだ。

✿本は水が苦手です

 雪から雨に変わっていく3月です。雪でも雨でもジュースやコーヒーでも、とにかく本や雑誌は水分が苦手です。誰でも一度は本を濡らしてしまった経験があるのではないでしょうか。水分を含んだところは膨れてしまって、しかもなぜか波打ってしまいますし、乾かしても元には戻りません。そうなることを防ぐために図書館では飲食禁止にしています。最近ではキャップを閉めたペットボトルくらいならOKという図書館もありますが、まだ少数です。1階飲食コーナーや2階ロビーではOKですので、ご協力お願いします。

図書館員として時たまギョッとしてしまうのが、雨の中傘もささずに借りた本をそのまま持って歩く人を見掛けるときです。買い物袋でもなんでもいいので本を覆ってほしいです。1・2冊だったら上着の内側に入れてもいいでしょうし。どうかお願いします。 (陽)